なぜ血栓予防の薬はずっと飲み続けるの?

(患者様)医師から、心臓に人工弁をつけているから、血栓を作りにくくする薬は飲みつづけるようにと言われています。弁を取り付けて心臓からきちんと血液が送り出されるようになったのに、なぜずっと飲まないといけないんでしょうか?

(私)血液というものは理想の流体ではありません。粘性もあるし滞留することもあります。また、血液には血液凝固系という、出血時や外傷がなくても流れが滞る時に血液を固めるというしくみがあります。これが血栓です。人工弁は血液の流れが乱れてそれが引き金になって血栓ができることがあるのでお薬でそれを抑えているのです。

(患者)血液は大河のようにゆったりと流れているものだと思ってました。でも人工弁の近くではダヴィンチの絵(図1)のような乱れた流れになることがあるのですね。

図1:レオナルドダヴィンチの渦素描

(私)血栓ができないよう、きちんと毎日お薬を飲んでくださいね。

つづく

参考文献:血管内に発生する乱流、山口隆美ら。

 

 

 

 

 

血栓ってどうやってつくられるの?(せん断応力とは)

つづき

血をかたまりにくくする薬リクシアナを飲んでいる患者様からの質問。

(患者様)薬で血栓を作りにくくすることはわかりました。そもそも血栓ってどうやってつくられるのですか?

(私)メカニズムの詳細は分かっていませんが、血栓は「せん断応力」が大きいと作られやすくなります。

(患者様)せん断応力って何ですか?

(私)せん断応力については、以下第99回薬剤師国家試験(正解は5)製剤分野にも出ています。

せん断力は図1に示すようにZ軸方向に距離のある物体に対して、X軸方向に一定の力をかけた時、XY方向の断面積Sにかかる力です。

上の図のように平板A、Bの間に液体を満たします。平板Aを固定して、平板Bをv3で動かすとします。速度が一次元的に増加するとき、速度の傾きをせん断速度(D)と言います。上の図のせん断速度はv3/l(s-1)となります。

せん断応力(τ)は、せん断速度に係数をかけて下記の式で表されます。この係数を粘度と言います。引きずられる速さが大きいほど引きずられる具合も大きくなります。

τ=μ・D

(τはせん断応力(Pa)、μは粘度、Dはせん断速度(s-1))

実はこのせん断応力は血液にも応用出来る場合もあります。血管内では、赤血球は中心部を比較的早いスピードで流れ、血小板や白血球は血管壁を遅いスピードで流れます。血管は粘つく性質(粘度)を持っているため、この速度の違いと粘っこさによって血管の中でせん断応力が発生する場合があります。血管壁の近くと移動している血小板は、特にこのせん断応力にさらされ、その力が血栓ができるのにかかわっています。

 

血栓形成を抑制する、せん断速度は1700/秒以下とされています。

体の中のさまざまな血管の種類におけるせん断速度は以下のようになっていると言われています。

せん断速度<1000 /秒 – 静脈、大きな動脈

せん断速度1000〜10000 /秒 – 動脈狭窄の領域

せん断速度> 10000 /秒 – 深刻な血管狭窄

血小板凝集の調節における血液レオロジーの重要性より抜粋

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

【糖尿配合錠トラディアンスの説明会に出席しました】

糖尿配合剤トラディアンスの説明会に出席しました。

トラディアンスは腎臓によるグルコースの再吸収を阻害し、尿中にグルコースを排出するジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)とDPP4阻害剤のトラゼンタ(一般名:リナグリプチン)合剤である。単剤同士の併用と比較して利点は①患者様の負担が軽くなる(8割)②お薬の数が減って患者様の服用が楽になる、③多剤投与防止があげられる。治験は1相と3相のみ実施された。再審査期間はジャディアンスの再審査終了2022/9/20に合わせ2018/9/21から2022/9/20とされた。

トラゼンタ、ジャディアンスについては、承認時に請求されなかったものの、心不全アウトカム試験(主要評価項目:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)が実施された(トラゼンタについてはこちら。ジャディアンスについてはこちら)。参考までに以下にジャディアンスの例を示す。ベーリンガーインゲルハイム(株)様によるとFDAではある基準に達していないとこの試験が要求されるとのことであった。

試験名:心不全アウトカム試験

治験薬剤名:ジャディアンス

背景:糖尿病患者は、糖尿病に罹患していない人と比較して、心血管疾患を発生するリスクは2~4倍である。2015年には糖尿病によって全世界で500万人が死亡し互いに、心血管疾患が主要な原因だった。

目的:本邦では承認時に要求はなされなかったが、欧米では上市した糖尿病新薬に対し心血管リスクを増やさないというエビデンス構築の要求がなされるため。

対象患者:心血管疾患の既往歴のある2型糖尿病患者約7000人

結果:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の頻度はプラセボと同等であった。

参考までにSGLT2阻害剤(ジャディアンス)の脱水予防の適正使用を示す。

1.投与初期はのどが渇く前に水分を摂る(起床後、トイレ後、入浴前後)。プラセボに比べて500mL尿量増加(投与1日目)

2.投与継続期はのどが乾いたら水分を摂る。投与初期に見られた尿量増加は見られない。飲水回数を過度に増やすと頻尿の原因になる。

3.高齢者は普段からこまめに水分をとる。SELT2阻害にかかわらず有害事象の発現率が高くなる

トラディアンス資材より引用

 

 

 

血流の速さで血のかたまり方が違うんです

(患者様)昭和37年に運転免許を取って以来、50年以上タクシーの運転手をしている。長時間、同じ姿勢で座っているので、脚の静脈の血が流れにくくなり、仕事が終わると足がむくむ。エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)ではないかと思っている。

(私)エコノミークラス症候群は、飛行機のエコノミークラスに乗っていた人が、到着後に急に具合が悪くなり、死亡するという事故によってつけられましたよね。立ち上がって歩き始めた瞬間に血栓が血流に乗って流れ始め、肺まで流れると、血管が詰って、「胸の痛み」や「息苦しさ」などを感じ、血栓が肺まで流れないとむくみなどが出ます。今日はピタバスタチンが出ていますが。

(患者様)はい。頸動脈エコー検査でプラークが見つかったのです。動脈硬化の説明を受けました。血栓ってどこにでもできるんですか?

(私)動脈でも静脈でも血栓はできます。動脈と静脈では血流の速さが異なるため、動脈内での血栓と静脈内での血栓はできる仕組みが違います。

動脈は血流が速いため、血小板が活性化して血栓ができます。そのため、血栓には血小板が多く含まれ、白っぽい血栓となります(白色血栓)。一方、血流が遅い静脈では、凝固系が活性化して血栓ができます。フィブリンが多く形成され、そこに血中の赤血球が取り込まれるため赤っぽい血栓となります(赤色血栓)。

 

つづく。

 

 

抗凝固薬をのんだら血尿がでた。そのままにしていいの?

半年前心房細動でアブレーション治療をした60代男性患者様からの質問。

(患者様)血栓予防のため、抗凝固薬リクシアナ60mgを服用している。血尿がでた。主治医からは血尿は気にしないで服用を続けるよう指示されている。血尿が出ても飲み続けていいのか?

(私)血管が傷つくと、その部分に血小板が集まります。そして、血小板などから放出される血液凝固因子が引き金となり、フィブリンが集まった繊維が生成され、赤血球などの血球がからめとられて血ぺいができます。この一連の過程を凝固と言います。この間に血管内に修復が起こり、最終的に線溶(フィブリン溶解)というしくみが働き、血ぺいは溶かされ取り除かれます。実は、外傷を受けていない血管でも、例えばコレステロールがたまり、血管内壁の細胞に傷がついた場合でも、凝固→線溶は絶えず繰り返されています。

リクシアナは血小板に含まれている血液凝固因子を阻害してフィブリンを作らないようにします。そして、最終的に血液を固まらせないようにして梗塞を予防します。よって、リクシアナを服用すると血が止まりにくくなります。添付文書によると、鼻血、血尿、皮下出血、消化管出血、眼内出血などが起きやすくなります。体内では損傷を受けていない血管でも凝固→線溶は絶えず繰り返されているため、リクシアナを服用すると出血が起きやすくなります。医師は病態と血尿の量を鑑み、血尿が出ても気にしないようにおっしゃったと思われます。

(患者様)なるほど。体のどこかに例えば尿道などに損傷があるから血尿がでると思っていました。炎症がなくても体内では血管が傷ついたり、血栓がつくられたり溶かされたりしているのですね。主治医が気にしなくていいとおっしゃった意味が分かりました。

(私)実際に血液が固まる実験をしてみました。図1は鶏レバーの血液です。図2は、塩化カルシウムを加え3時間後の血液です。劇的に凝固は起こらず、徐々に白いフィブリンが見えてきます。図3は塩化カルシウムを加えなかった3時間後の血液です。図4は図2から析出した個体(血ぺい)を取り出したものです。

(患者様)なるほど。血液は赤い液体のイメージがあったのですが、固まっていない血液のほうが珍しいものなのですね。血液は放置しておくと徐々に固まるものなのですね。リクシアナを飲む意味が分かりました。

参考文献:生物基礎 数研出版。実験は上記の教科書を参考に行った。上記の記載は経験上に基づくもので患者様は架空の人物です。

【在宅訪問】慢性疾患と急性疾患

在宅患者Aさん(70代、女性、独居)は、足の動きがゆっくりになり(運動緩徐)、足が一歩前に出なくなり、よちよち歩きになり(随意運動の開始ができにくい)、在宅を希望された。現在検査中である。ミーティングで医師が神経変性疾患という言葉を発していた。

神経系に影響を及ぼす主な疾患として、アルツハイマー病、脳性麻痺、うつ病、てんかん、パーキンソン病、統合失調症、脳卒中(脳梗塞、脳出血)、多発性硬化症、脊髄性麻痺がある。この中で解剖学的に変性と認められるもの、機能的でなく器質的(身体組織上)問題がある疾患を神経変性疾患という。例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病である。アルツハイマー病はβアミロイドの脳神経細胞への沈着が一つの原因と考えられ、パーキンソン病は、黒質ニューロンの変性である。図1に変性から細胞死(自殺)に至る過程を示す。

Wikipediaによるとそもそも神経変性疾患に関して普遍的な定義はなかったが、昨今発症機構が分子レベルで解明された結果、関連する蛋白質の構造異常や凝集が神経変性の病態の根底にあり、「蛋白質の蓄積病」という共通メカニズムが存在していることが明らかになったようだ。

神経系障害は時間をかけて神経細胞死(自殺)に至る。前回の記載した脳梗塞は数時間~数日単位で急激に神経細胞が死ぬ急性疾患であった。神経変性疾患は進行性の慢性疾患である。在宅訪問時は慢性と急性を常に留意して患者様に接していきたい。

図1 病的な基底核ニューロンは自殺するか

神経科学 西村書店からの引用

上記の記載は経験上に基づくもので患者様は架空の人物です。

オプジーボその2-免疫の語源は免税?!ー

モノクローナル抗体であるオプジーボ。抗体医薬が有効であることが脚光を浴びています。その基礎となる「免疫」。そもそも「免疫」という言葉を最初に使ったヒトはだれなのでしょう?歴史を調べてみました。

「免疫」という言葉を使わなくても一回かかった病気にはかかりにくいことは昔から経験的に知っていました。

紀元前5世紀、ペロポンネソス戦記を書いたトゥキディデスは、ペストに一度かかった者は二度とかからなかったことを「二度なし」という言葉で記述しました。

中世1340年代、慈善活動を行うキリスト教騎士団がペストの犠牲になった際、奇跡的に助かった騎士たちはそれ以後ペスト患者と接触してもこの病に倒れませんでした。これは神のご加護と信じられ、ローマ法王はこの騎士たちを免税しました。この特権は、課税(munitas)を逃れる(im-)からimmunitasと言われ、これが今日のimmunity(免疫)という言葉の語源になりました。(古くて新しい免疫学、菅野雅元からの要約)

その後、ジェンナーは牛の乳しぼりをしている女性が天然痘にかかりにくいことを発見しました。そこで、その女性の腕にできた水疱からとった膿をほかのヒトに接種したところ、接種を受けた人も天然痘にかかっても軽症ですむことを発見しました。このことから天然痘予防として牛痘を接種することを考えました。のちに牛痘ウイルスの表面上の抗原決定基と天然痘ウイルスの抗原決定基の一部が一致していることがわかります。牛痘と天然痘は違う病気ですが共通する抗体ができることが証明されたのです。下の写真は、8才の少年に牛痘の接種をして天然痘予防の有効性を証明するジェンナー。

その後、利根川進は、抗体を作り出す遺伝子が、組みかえられて使い回しされていることを発見し、抗体の多様性のしくみを解明しました。そしてこの抗体を抗原抗体反応ではなく、ツール(分子標的)として使う抗体医薬が生まれたのです。

掲載画像「天然痘ゼロへの道」-ジェンナーより未来のワクチンへー 内藤記念くすり博物館編 エーザイ株式会社発行

 

オプジーボ(ニボルマブ)のはなしー実験室から臨床へー

オプジーボ発見者の本庶先生がノーベル賞を受賞された。初めから抗がん剤をねらっていたわけではなく、実験で偶然みつけたものをいかに患者様に役立てられるかという発想で、製薬会社を説得してオプジーボが生まれたそうだ。

本庶先生が実験室からみつけたもの

PD-1(programmed death 1)は、1992年本庶らが胸腺における細胞死の際に誘導される遺伝子を調べていた時に偶然発見された受容体である。その後、PD-1を発現していないマウス(PD-1欠損マウス)が、過剰な免疫反応で自分が傷つく自己免疫疾患(SLE1)様の腎炎・関節炎など)を起こしたことから、PD-1は過度な攻撃が起きないように免疫を調節する(抑制する)しくみの一つであることを発見した(要は何でもかんでも攻撃しないように免疫を抑える)。

本庶先生の発想の転換

がんは免疫機能が低下してがん細胞が増える疾患である。本庶らは、このように免疫が低下したなか、PD-1の活性をブロックすれば、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようになるのではないかと考えた。そしてがんの治療に用いることができるのではないかと発想を転換した。PD-1をブロックすれば、はびこっているがんをたたくことができると製薬会社を説得して治験が開始された。このブロック剤がオプジーボ(ニボルマブ)である。

副作用について

オプジーボは、過剰な免疫反応を起こす薬でもあるので、自己免疫疾患様の副作用が出るとの報告がある。

薬学は、生薬からの薬効成分の構造式を決めることが出発点だったため、つい有機化学にこだわってしまうが、このように免疫のメカニズムから薬が発見されることがあるとは驚きであった。

1)SLE (Systemic Lupus Erythematosus 全身性エリテマトーデス)。前記事:患者様ブログ参照

オプジーボの作用機序はこちら

 

 

 

【糖尿病新薬オゼンピック皮下注の勉強会に参加しました】

糖尿病新薬オゼンピック皮下注(セマグルチド)の勉強会に参加しました。

糖尿病のお薬には注射剤と錠剤があります。注射剤は組成がタンパクで腸管から吸収されないため、皮下注射されます。注射剤には、①インスリンアナログ製剤1)②インクレチン(インスリン分泌ホルモン、以下、GLP-1という。)製剤の2種類あります。オゼンピックは、後者に属します。食事をとると下図のようにホルモンGLP -1が分泌されインスリンが出されます。オゼックスはGLP-1を改変させたものです。

オゼンピックは既存のビクトーザ(GLP-1+パルミチン酸、1日1回皮下投与)の投与間隔を持続させ、週1回皮下投与としたものです。同じく週1回の既存薬トルリシティ2)(GLP-1+ヒト抗体)と比較し、体重減少効果が強いのが利点です。

持続化のメカニズムについては以下の通りです。①長鎖脂肪酸によるアルブミン結合の増強により半減期を遅らせます。②GLP-1は下図のようにDPP4で分解されます。オゼンピックはDPP4での分解が起きにくくなっています(詳細はインタビューフォーム参照)。

1)インスリン製剤トレシーバはなぜランタスの倍の時間効くの?

2)糖尿病注射トルリシティはなぜ1週間効くの?

卵は1個まで?ーコミュニケーションに新聞ネター

患者様とコミュニケーションをとるのに欠かせない新聞ネタ。悪玉コレステロール(LDL)が高かったため、薬を飲み始めた患者様。

なるほど、「コレステロールを運ぶのがLDL,余ったLDLを掃除するのがHDL(善玉コレステロール)。」そういう説明があったのか!医療の主役は患者様。分かりやすく説明できるよう努めて参りたいと思います(患者様に教わりながら)。

参考文献

1)厚生労働省「日本人の食事  摂取基準(2015年版)」において、「コレステロールの摂取基準は低めに抑えることが好ましいと考えられるものの、目標値を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定を控える。」と記載がなされた。これまで、コレステロールの一日摂取量上限は、日本では男性750mg、女性600mgだった。ちなみに、50〜60gのたまご1個のコレステロールは200〜240mgと言われているので、1日2個食べると目標値をオーバーしていた。

引用:コレステロールの摂取制限の上限が撤廃された理由

2)

引用:杉本クリニック「崩れるコレステロールの常識」

参考までにLDLの模式図を示す。

引用:細胞の分子生物学第2版:P.328