Precision Medicine(プレシジョンメディシン)とは?

2015年1月20日、オバマ大統領は以下の一般教書演説の中で「Precision Medicine(プレシジョンメディシン)」という言葉を使った。

“I want the country that eliminated polio and mapped the human genome to lead a new era of medicine – one that delivers the right treatment at the right time,”

“Tonight, I’m launching a new Precision Medicine Initiative to bring us closer to curing diseases like cancer and diabetes — and to give all of us access to the personalized information we need to keep ourselves and our families healthier.”

— President Barack Obama, State of the Union Address, January 20, 2015

引用はこちら

訳は以下の通り。「私は、ポリオを撲滅し、ヒトの遺伝子地図を作ったアメリカ合衆国に、適切な時期に適切な治療を提供する新たな薬の時代を導くことを望みます。今夜、私はがんや糖尿病などの治癒に一歩でも近づけるために、Precision Medicineを立ち上げます。Precision Medicineは、私たちすべてに、私たちや私たちの家族をより健康に保つために必要な個人的な情報にアクセスすることを提供します。」

プレシジョンメディシンとは、研究社の新英和辞典によるとprecision(正確、精密) medicine(医学、薬)で「精密な医薬」という意味だ。ある薬において、レスポンスのいい患者とレスポンスの悪い患者に分ける。そしてその薬を適切な時期にレスポンスのいい患者に投与する。昔から医者がやっていることであるが経験に基づいた“医者のさじ加減”を科学的な根拠に基づいてやりましょうということである。

こんな難しい言葉を使わなくてもすでになされていることである。例えば、漢方医が体力のある人「実証」、体力のないヒトを「虚証」に分けて漢方薬を処方する。HER2過剰発現が確認された乳がん患者にハーセプチン(トラスツズマブ)を投与する。EGFR遺伝子変異陽性の肺がん患者にイレッサ(ゲフィチニブ)を投与するなど。

要は医師が診断しながら薬を決めていく過程で効く患者を選んで投薬するということである。オプジーボ(ニボルマブ)のような薬も将来的にこのような使い方がされるのが期待されている。

オプジーボ(ニボルマブ)のはなしー実験室から臨床へー

オプジーボ発見者の本庶先生がノーベル賞を受賞された。初めから抗がん剤をねらっていたわけではなく、実験で偶然みつけたものをいかに患者様に役立てられるかという発想で、製薬会社を説得してオプジーボが生まれたそうだ。

本庶先生が実験室からみつけたもの

PD-1(programmed death 1)は、1992年本庶らが胸腺における細胞死の際に誘導される遺伝子を調べていた時に偶然発見された受容体である。その後、PD-1を発現していないマウス(PD-1欠損マウス)が、過剰な免疫反応で自分が傷つく自己免疫疾患(SLE1)様の腎炎・関節炎など)を起こしたことから、PD-1は過度な攻撃が起きないように免疫を調節する(抑制する)しくみの一つであることを発見した(要は何でもかんでも攻撃しないように免疫を抑える)。

本庶先生の発想の転換

がんは免疫機能が低下してがん細胞が増える疾患である。本庶らは、このように免疫が低下したなか、PD-1の活性をブロックすれば、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようになるのではないかと考えた。そしてがんの治療に用いることができるのではないかと発想を転換した。PD-1をブロックすれば、はびこっているがんをたたくことができると製薬会社を説得して治験が開始された。このブロック剤がオプジーボ(ニボルマブ)である。

副作用について

オプジーボは、過剰な免疫反応を起こす薬でもあるので、自己免疫疾患様の副作用が出るとの報告がある。

薬学は、生薬からの薬効成分の構造式を決めることが出発点だったため、つい有機化学にこだわってしまうが、このように免疫のメカニズムから薬が発見されることがあるとは驚きであった。

1)SLE (Systemic Lupus Erythematosus 全身性エリテマトーデス)。前記事:患者様ブログ参照

オプジーボの作用機序はこちら

 

 

 

介護グッズ紹介―消臭敷ベッドパッドー

患者様のご家族から以下の質問があった。

家族が時々夜中に失禁してしまう。テレビショッピングで消臭敷パッドをお手頃価格で買ったところ、尿のにおいが漂わなく、お手入れも水洗いするだけで外に1時間も干せば乾く。いったいどんな繊維でつくられているのか知りたい。

製造元に聞いたところ、担当者から回答をいただきました。①表側:綿100%、②裏側:綿100%、③中綿:機能性綿の一つである消臭わたを採用とのこと。

そこで、消臭わたを調べてみました。特許の関係で詳細はわからなかったのですが、例えばA社の機能性わたの場合、汗臭・加齢臭の原因である、酢酸、イソ吉草酸、ノネナール、アンモニアを消臭する消臭剤をアクリルポリマーとアセテートポリマーに練り込み、アンモニア等を吸着、中和させるとありました。においの元を分解させるのではなく、取り込ませて洗濯の際に流すという工夫がされているようです。

患者様のご家族は、「機能性繊維を使うと、もちろん家族の介護時間も短縮できますが、それよりも敷パッドを洗っている時間に患者様がテレビを見る、散歩に行くなどそんな時間が増えた。」とおっしゃっていました。そして何よりも安い。汗をかきやすい成長期のお子様や生理中のにおいが気になる女性にもいいようです。ヒートテックなど機能性繊維で重宝している私たちですが、介護の分野にも応用が拡がっているようです。日頃新薬ばかりに目がいきがちですが、患者様の日常の過ごしやすさをサポートする技術の向上にも目を見張るものがあると実感した日でした。

薬局で一番売れているのは飴ーその2-

患者様からの質問。

患者様「ノンシュガーって言っても還元水飴と書いているものはお砂糖が入っているんでしょう?」

私「還元水飴とは、水飴という食品に水素を加えて結合させてできた糖アルコールという化合物で、胃や腸で消化・吸収されにくい糖質です。砂糖などに比べてカロリーが約1/2~2/3です。また、この飴にはグルコースが入っていないので血糖の上昇が緩やかです。糖尿の患者様にはおすすめですが、カロリーがゼロではないので食べ過ぎに注意です。」

患者様「糖にはほかにどんな種類があるのですか?」

私「糖は、単糖類、少糖類、多糖類に分類されます。単糖類は、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどがあります。単糖が二個つくと二糖類になります。例えば、グルコースとフルクトースがくっつくとショ糖、グルコースとガラクトースがくっつくと乳糖になります。それがだんだん大きくなり、グルコースがたくさんくっつくと多糖類、例えば澱粉やグリコーゲンになります。消化液で分解されて小腸から吸収されるのは、単糖のグルコース、ガラクトース、フルクトースだけです。そして主要な栄養物質になるのはグルコースだけです。」

患者様「他の二つは栄養にならないのですか?」

私「どちらも栄養分にはなりますが、グルコースと違って、インスリンの分泌に影響しません。ガラクトースはほとんどが肝臓に入り、グリコーゲンの合成に使用されます。フルクトースは、肝臓でグルコースの代謝経路の中間代謝物に変換されます。注1

患者様「グルコースは燃焼することでエネルギー源になると聞きました注2。ガラクトース、フルクトースはその過程の中間体の役割も果たしているのですね。それでノンシュガー飴よりも普通の飴を舐めるとより元気になるのですね。」

栄養学における最近の話題からの要約

大塚製薬工業(株)栄養学の基礎知識からの抜粋

注1:ガラクトースはほとんどが肝臓に入り、ガラクトース1リン酸からUDP-グルコースと変換され、グリコーゲンの合成に使用されます。少量のガラクトースは細胞膜や血清中の糖タンパク質や糖脂質の糖鎖部分の合成に利用されます。フルクトースは、肝臓で解糖系の中間代謝物に変換されます。また、脂肪酸合成のためのα―グリセロン酸に代謝されます。小腸から吸収されるグルコースが非常に少ない場合、肝臓でグルコースの生成に利用されます。

注2:グルコースは呼吸で取り込んだ酸素と反応して、二酸化炭素と水とエネルギーに変換され、エネルギーはATP,NADHという形で蓄えられます。

薬局で一番売れているのは飴

「口が乾燥してカラオケが歌えない。」、歌を生業とされている方から、「唾液の分泌が悪くて飴を舐めている。いい薬はないか?」なんて相談を受ける。

緊張すると交感神経が優位になり、だれでも喉がかわく。その作用を応用した副交感神経刺激薬のサラジェン、エボザック、人口唾液サリベートエアゾルなどがあるが、シェーグレン症候群など適応が決まっているので処方は難しい。薬は副作用があるから、その程度なら飴や水で善処してという流れだろう。

結局、ジェルタイプの「バイオティーン」やお手頃価格の「うるおいキャンディー(ノンシュガー)」を勧めることになる。後者をなめてみると確かに話すのも大変というほど唾液が出てくる。成分は普通のノンシュガー飴と同じく、清涼感の出るキシリトールや還元水飴などの糖アルコールである。唾液を出す物質とは何か?アサヒグループ食品様に聞いてみた。すると、形が凸凹しているので、舌が刺激されることで唾液が出るとの回答。刺激って重要なんですね。

口の乾燥以外でも栄養補給に飴を買われる方もいる。人血は重量にして約0.10%のグルコースを含んでいる(約0.16%に増大すると腎臓で除去され尿中に排泄される)。主要な栄養源であるグルコースが欠けると低血糖になり、ふるえなどが生じる。糖尿の薬をのんでいる患者様が低血糖予防で飴を買われることもある。グルコース以外の糖は、カロリーにはなるが、血糖にならないのでノンシュガーは薦めない。

のどの痛み、会議中にねむくならないように飴を忍ばせる会社員、空腹時、眠気の応急処置、ダイエットなど、飴はなかなか侮れないのである。つづく。

患者さまブログ

何回かステロイドの副作用に関して書いたが、「感染症にかかりやすくなるのはその作用(免疫抑制作用)からいって納得がいくが、ムーンフェイスや中心性肥満、果ては精神疾患にかかりやすくなるのはピンとこない」という感想をいただいた。

確かに…。

今ではステロイドの副作用の危険性は医療関係者にとって当たり前のことになっていきているので、漫然とした高容量長期投与はされなくなってきている。これはこれで喜ばしいことなのだが。

このような場合、(ステロイドに限らず)体験者の話は参考になる。最近、覗いたブログなどで感銘を受けた記事などをいくつか紹介したい。

歯科開業夫婦のひとりごと』‥女性歯科医さんのブログ。SLE (Systemic Lupus Erythematosus 全身性エリテマトーデス)を発症しているため、ステロイドの投与を受けている。歯科医さんだけあって自身のご病気に関してよく理解されている。さらに、ムーンフェイスを「アンパンマン」、牛骨肩を「ピッコロのような肩」、「リリカ」を「萌え系アニメの主人公のような感じの名前」と表現されるなどユーモアもある。

Kiyo’s blog 2011』‥SLE 患者を家族にもった男性のブログ。専門家目線では「腎障害は、ステロイドの副作用ではなく SLE の症状ではないか」と思うこともありますが、正直、泣けます。

SLE は比較的若い女性が罹患しやすい疾患だけあって、関わった人に強い印象を残します。

ところで私は SLE のことを「ループス」というときがありますが、私だけですかね?

 

 

国試の薬学実践問題を解いてみました

6 年制に移行した薬剤師卒前教育に関してコメントしたこともあって「今の国試ってどうなってるんだろう?」と実際の国家試験の問題をざっと眺めてみました。いやあ、勉強しなければならないことが増えてるんですね (^^ゞ

薬学実践問題というのが目新しい。最近、書いた記事に関連していうと、この問題が近かったかな?

おお、ゲフィチニブ。なんですが、問題はゲフィチニブそのものではなく、ゲフィチニブによって惹き起こされたと考えられる肝障害の対応に関する問題。『グリチルリチン酸の副作用ー偽性アルドステロン症』が頭にあれば、問題文にある低 K 血症、高血圧、浮腫の原因はグリチルリチン酸の配合錠と推定でき、選ぶべき選択肢は 1 とわかる。

仮にこれを知らなくても正解は導けそうだ。この症例のプロブレムリストを作成すれば

①非小細胞肺がん ②肝機能低下 ➂低 K 血症 ➂高血圧 ④浮腫、倦怠感

であり、この順番で症状が出現し、その都度、(②以下は対症療法的に)処方がなされている。その点を踏まえて選択肢を吟味すると、、、

1 →それっぽい。保留。

2 →低 K 血症を悪化させるおそれがある。選べない。

3 →降圧薬。高血圧といっても上が 160 程度。重要性は低い。

4 →K 保持性の利尿薬。それっぽいが、保留。

5 →ループ利尿薬。低 K 血症を悪化させるおそれがある。選べない。

となり、考慮すべき選択肢は 1 か 4 になる。しかし、④浮腫、倦怠感はこの時点で主観的な訴えであることや『薬剤の副作用はまず原因薬剤を中止する』の原則からいっても薬剤追加型選択肢の 4 は選べない。なので、消去法でいっても 1 になるはず。。。ですが、前途ある薬学部生は、お受験テクに走らず、きちんと勉強しましょうね !(^^)!

 

んー、なんですが、この問題はちょっと違和感がある。問題自体を批判するというわけではないし、むしろ、この手の実践問題を出題する意義は十分認めているんですが。。。。なんだろう、この違和感???

ちょっと知り合いの医師に聞いてみました。すると、以下のような感想を持ったそうです。大雑把に要約します。

「人によっては変な感じを持つかもしれない。原因は ① 現実的にこの状況がおこりえるのかという問題設定、その上で ② 医師-薬剤師間のコミュニケーションが妥当かという点」

だそうで、①に関しては

「設定的に肺がんを外来でフォローしているようだが、これは医師の中でもそれなりに技術・経験を持った医師しかやらない。そのような医師が、これほど見え見えの副作用を見逃すことがあるだろうか? この処方内容だけみたら、むしろ、何らかの事情で、グリチルリチン酸製剤が外せず、低 K 血症の補正が必要な患者さんなんだろうなあと思ってしまう」

とのこと。その上で、②に関しては

「ぱっと見、不自然な処方を二か月近く続けているわけで、実際的には、こういう場合、何らかの理由があると考える方が自然。ある程度臨床慣れした人なら、職種に限らず、まず、患者さんからの情報収集を試みるのが自然じゃないかな。例えば、どういった経緯で外来フォローになっているのか?とか、肺がんの進行度はどの程度なのか?とか。細かいことでいえば、下痢や嘔吐はしてないか?とか(筆者注‥これで、消化管からの K の流出をチェックする)。薬剤師だからといっていきなり主治医に対して処方提案するのはちょっと現実的じゃないかも」

だそうだ。なるほど。

 

ジェネリックいかがですか

薬に厳しい90代の患者Aさん。私が「ジェネリック(後発品)いかがですか?」と聞いても先発品と即答されます。先日基幹病院に入院され、お嫁様が退院時の処方箋を持っていらっしゃいました。すると処方箋にはジェネリックの銘柄1)が記載。私達が勝手に先発品に変えることができない旨を申し上げると、「聞かれると絶対に先発品と言いますけど、(お医者様に)出されたものはきちんとのみますから。」と苦笑い。

「後発品と先発品とどう違うのですか?」と聞かれると「添加物は違いますが2)、先発品と同じ治療効果があるものです3)。」「特許が切れているのでお値段がお安くなります。」などと申し上げますが、皆さんやっと診察が終わって、さっさと帰りたい人が大部分。「先生が書いた通りに出してください。」で終わること多数。

こだわりのある人でも、お医者様の処方次第というケースが少なくないのでです。

参考文献等

1)処方箋において薬は①一般名、②ジェネリック銘柄指定、③先発品のどれかで記載される。例えばロキソニンならば以下のとおり。変更不可欄に医師のチェックが入っていない場合、①と③は患者様の同意のもと、ジェネリックに変更できる。

①【般】ロキソプロフェン錠60mg

②ロキソプロフェン錠60mg「AAA」

③ロキソニン錠60mg

2)JAPICブルーブックデータ一覧http://www.bbdb.jp/generic/toppage.aspx

3)医療用医薬品最新品質情報集(ブルーブック)データシート一覧http://www.nihs.go.jp/drug/ecqaged/bluebook/list.html


 

受験めし

寒くなってきましたね。

この時期の風物詩の一つといえば、「受験」があります。

ネット上にも、受験にまつわるいろんな情報が集まっています。けっこう驚いたのは、「受験日の前日夜と当日朝には何を食べたらいいか?」というまとめサイトがあったこと。便利というかお節介というか。。。

『将棋めし』が話題になったことからわかるように、頭をフル回転で働かせているときの栄養補給は大事です。

色んな意見があると思いますが

① 脳の神経細胞がもっとも利用しやすいエネルギー源であるグルコースを速やかに補給する

ということに加え

② 気分転換作用を期待する

という意味で集中しているときの食事は確かに重要だと思います。① に関して軽くまとめておくと、

・脳の主要なエネルギー源は、グルコース(従来は、グルコース「のみ」といわれてきましたが、現在はケトン体というものもエネルギー源として利用できることがわかってます。けれどももっともお手軽に利用できるのはグルコース。医療現場で、経口摂取不能な低血糖患者にまずおこなう処置はグルコースの静脈注射です)。

・グルコースの消費量を臓器別にみると、脳で 2 割程度が消費されている(脳は非常に「ばか食い」です)。

・ご飯や麺などの炭水化物が体内で分解されてグルコースになる。一部のスポーツ選手は大会前日・当日にパスタやバナナなどを多めに摂取する(腸内から吸収することに加え、グリコーゲンという形で体内に備蓄しておくことができるため)。

といったところでしょうか。

一昔前の漫画だと特別な日の前に「ビフテキ喰いいくぞ!」という表現があったりしますが、戦後の食糧難の時代ならいざしらず、現在は、恒常的にアミノ酸が足りてないということは考えにくく、栄養面からみるとあまり意味がなさそうです。特別な食事で発奮させるという効果はあるかもしれませんが。過度のプレッシャーは、心理的な意味で良くなく、当日前日の食事などは常日頃から食べ慣れているものでいいんではないでしょうか。気になるようなら炭水化物多めで。

ただし、受験当日は、どんなに神経図太い人でも少なからず緊張状態におかれます。緊張状態におかれると、変にお腹がすいたり、逆に、食事が喉を通らなかったりと一時的な「摂食障害」が出る場合もあります。こればかりは当日になるまでわかりません。念のため、飲み物や手軽に食べられるお菓子類は持っていった方がいいかもしれません。ちなみに私は、某国家試験当日は、日頃から愛飲しているペットボトルの紅茶飲料を気持ち多めに持っていって助かりました。変に喉が渇くわ、えづくわで食事どころではなく、糖分入りの飲料水は、重宝しました。

ところで、こういった短期的な栄養補給ということの他に思い出すことがある。某国家試験の二か月ほど前だったろうか、受験の重苦しさを実感し始めたとき、突然、掌の皮がぼろぼろと剥げはじめた(落屑、という)。片方の掌だけであれば、接触性皮膚炎だとかが考えられるが、そうではない。両の掌のみに対称的に小さい白いぶつぶつ(水泡)ができて、やがてぼろぼろと剥がれ落ちていくのだ。痛みや痒みはまったくなし。なんだこれは?と調べてみると、『掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)』というのがこれに近い。で、この病気の原因をさらに調べると、ビオチンという物質が不足してなるらしい。ビオチンは、かつて「ビタミン H」と言われていた補酵素の一種でヒトでは腸内細菌叢でつくられるらしい。どうやら、私の体内では、過度のストレス→腸内細菌叢破壊→ ビオチン産生量減少→掌蹠膿疱症、ということがおこっていたらしい。文字通り、「ストレスが身体に来て」しまったのだ。

そのときは、「今から緊張してもしょうがないし」と自分に言い聞かせ、気持ち野菜や乳製品を多めにとることでなんとか乗り切った覚えがある。ある程度の年齢になってしまえば、過度のストレスをかわす知恵を持っている。しかし、これが小学生や中学生くらいの年齢だったらどうだろう? 過剰なストレスを感じながらもその回避方法を知らない、というのはなんとも不健康な状態ではないだろうか。この業界に入ると、受験を背景にした下痢や血便に悩まされる子供が数多くいることを知ることになる。時には精神的な病に発展することもある。過剰ともいえるストレスに子どもを曝すのは、今の時代、ある程度仕方のないことなのかもしれない。けれど、子どもが自身で処理しきれない情況になったとき、手助けするのは周囲の大人の責任だ。そのようなとき、危険信号は、「食」がらみで出ることが多い。このことを心の片隅のどこかに留めておきたいと思う。

 

生物学関連の「説明」はなぜわかりにくいのか?


CLIL Human Biology, Shubunsya からの抜粋
インフルエンザワクチンをうつと

免疫のところがちょっとわかりにくいということで補足。

「ぴかぴか光る電球」だとか「おまわりさん」だとかよくわからない喩えを出した抗体の役割であるが、たいてい次のように分類されている。

①中和

②オプソニン化

➂補体の活性化

初見だとごちゃっとしていてわかりにくい。

まず、①は抗体単独でその役割を果たす点で②・➂とは違う。有名な例はインフルエンザに対する抗体。インフルエンザウィルスは外壁(エンベロープなどという)に細胞にとりつくためのイガイガしたたんぱく質(スパイクたんぱく質)をもっているが、抗体はこのイガイガに特異的に結合し無力化する。ウィルスのイガイガが「立体的」に遮蔽されてしまうと、インフルエンザは細胞にとりつくことができず、体内で増殖することができなくなり、結果、インフルエンザ発症の予防につながる。なお、インフルエンザはエンベロープにはいくつかのサブタイプがあり、どの年にどのサブタイプを持ったウィルスが流行するかわからない。特定のサブタイプを予測してワクチンを作製するわけであるが、必ず予測が当たるとは限らない。ワクチン接種が十分であるにも係わらず、流行してしまうのはこのためもある。それと、「中和」という言葉が誤解をまねきやすいかもしれない。高校の化学ででてくるような酸塩基の中和反応を連想させてしまうので、生物っぽさがなくなる。高校化学の酸塩基の中和反応はあくまで水溶液中での「イオンの結合⇔解離」、免疫の「中和」の反応は、「抗原抗体反応」(疎水結合・水素結合・分子間力など)がベース。

②・➂は抗体の他に役者がでてくる点で①と違う。②と➂の違いは、②オプソニン化ででてくるのは、好中球・マクロファージといった免疫担当「細胞」、➂補体の活性化では、補体という血中「たんぱく質」。両者は連れてくるパートナーが物質的に異なる。この点が違うわけです。ややこしいですね。

ただ、ここらへんがわかりにくい真の理由は、教科書的なテキストの記述が、免疫という生体防御反応を役者によって現象論的に分類しているだけにすぎない、というのもあるでしょう。

例えば、オプソニン「化」・補体の「活性化」というからには、抗原抗体反応がおこった際、単純に考えて反応後に抗体に何らかの変化がおこっていないとおかしいはずです(そうでなければ、抗体単独でも勝手にマクロファージが遊走してきたり、抗原抗体反応によらない抗体「補体」反応が体中でおこってしまったりすることになる。が、生体でそのような反応がおこっているとは思えない)。で、実際のところ、物理化学的な意味では、ここらへんの機構は、よくわかってません

特定の抗原と結合した抗体を、反応の前後で X 線回折にかけ、立体構造を計測したデータはあるにはあります。が、遊離したままの抗体と抗原抗体複合体を形成した抗体とで立体構造に「差がある」という結果と「差がない」という結果が混在しています。また、差があったとしても、それが引き続いて起こる免疫応答の本当の原因かどうかの検証は難しいでしょう。

こういったことに触れないで、分類だけで事をすませてしまう生物学界隈の「説明」習慣もちょっとどうかと思うところがあります。教科書的なテキストには、原理的な「説明」と現象論な「分類の記述」が混在しているわけです。

まま、ここらへんはここらへんで話のネタになると思うので、それに関してはまた稿を改めて書きたいと思います。