オプジーボ(ニボルマブ)のはなしー実験室から臨床へー

オプジーボ発見者の本庶先生がノーベル賞を受賞された。初めから抗がん剤をねらっていたわけではなく、実験で偶然みつけたものをいかに患者様に役立てられるかという発想で、製薬会社を説得してオプジーボが生まれたそうだ。

本庶先生が実験室からみつけたもの

PD-1(programmed death 1)は、1992年本庶らが胸腺における細胞死の際に誘導される遺伝子を調べていた時に偶然発見された受容体である。その後、PD-1を発現していないマウス(PD-1欠損マウス)が、過剰な免疫反応で自分が傷つく自己免疫疾患(SLE1)様の腎炎・関節炎など)を起こしたことから、PD-1は過度な攻撃が起きないように免疫を調節する(抑制する)しくみの一つであることを発見した(要は何でもかんでも攻撃しないように免疫を抑える)。

本庶先生の発想の転換

がんは免疫機能が低下してがん細胞が増える疾患である。本庶らは、このように免疫が低下したなか、PD-1の活性をブロックすれば、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようになるのではないかと考えた。そしてがんの治療に用いることができるのではないかと発想を転換した。PD-1をブロックすれば、はびこっているがんをたたくことができると製薬会社を説得して治験が開始された。このブロック剤がオプジーボ(ニボルマブ)である。

副作用について

オプジーボは、過剰な免疫反応を起こす薬でもあるので、自己免疫疾患様の副作用が出るとの報告がある。

薬学は、生薬からの薬効成分の構造式を決めることが出発点だったため、つい有機化学にこだわってしまうが、このように免疫のメカニズムから薬が発見されることがあるとは驚きであった。

1)SLE (Systemic Lupus Erythematosus 全身性エリテマトーデス)。前記事:患者様ブログ参照

オプジーボの作用機序はこちら

 

 

 

腎機能のお話ー患者様の質問からー

黒人の30代女性患者様に腎排泄のお薬が処方されました。排泄の説明をしたところ、以下の質問が来ました。

(質問)「日本人と黒人は腎機能は同じですか?」

(回答)腎機能に人種差があるという報告はありません。腎機能は、クレアチニンという物質で評価されます。これは、筋肉に存在するクレアチンの代謝物で、尿から一定の割合で排出されるため、糸球体ろ過量(腎機能の指標、GFR)の指標として頻用されています。アメリカでは黒人の場合、他の人種よりもクレアチニン産生量が多いため(筋肉が多いことによる)、糸球体ろ過量を計算するときに係数を掛けて調整します。

【本邦では従来はMDRDという外国人向けの式に日本人係数0.808をかけて使っていました(日本人女性はさらに筋肉が少ないので0.742をかけて補正する)。黒人は1.212をかけて補正します。現在は、日本人向けの「推算GFR」(eGFR:estimated GFR)が日本腎臓学会から提唱され、使われています(参考文献はこちら)】

参考までに腎臓の機能を理解するため、高校の教科書の問題を挙げます。

腎臓に入った血液は、毛細血管の糸玉状のかたまりである糸球体でろ過されて、糸球体を取り囲んでいるボーマンのうに入ります。このときろ過されたものを原尿と言います。血球やタンパク質など大きくて通過できないものはろ過されません。その後、ろ過された原尿は、再尿管へと流れていきます。原尿が再尿管を流れる間に、水分、ナトリウム、グルコースなどの体に必要な物質は再吸収され、血液中からグルコースや無機塩類などの有効成分が失われないようになっています。一方、老廃物はほとんど再吸収されないため濃縮され尿として体外に排出されます。

生物基礎 数研出版からの引用。

考察1:イヌリンを基準に考える。1.2/0.01=120. 尿は1分間に1mL生成させるから120mL

考察2:グルコース:尿に出ていないので100%

水:原尿120mL、尿1mL、再吸収量199mL

199/120×100=99.6%

ナトリウムイオン:

原尿120mL中のナトリウムイオンは0.003×120=0.36(g)
尿1mL中のナトリウムイオンは0.0034×1=0.0034(g)
〔(0.36-0.0034)/0.36〕×100=99.05≒99(%)。

問3.2.4倍
水の再吸収率が98%になれば再吸収量は120×0.98=117.6(mL)
尿量は120-117.6=2.4(mL)になる。

問4.クレアチニン(75倍)、尿素(67倍)、尿酸(16倍)

問5.体にとって有用成分とならないもの。老廃物


 

 

 

 

汗の話ー奴隷商人が確かめていたものはー

Le Guide du commerce de l’Amérique, principalement dans le port de Marseille.出典

”上記の絵は、奴隷商人が汗に塩分が含まれていない奴隷候補者を連れて行こうとしている絵です。アフリカから米国までの長い航海に耐えうるには、少ない塩分で生活できる黒人、すなわち汗に塩分が少ない黒人が必要だったわけです。”

坂東ハートクリニックからの引用、一部改変

奴隷商人は、食事も満足に取れない長い航海に耐えられるように、皮膚からの塩分排出能の低い奴隷を選んでいたようです。

この体質を食塩感受性が高いと言います。現在、なぜアフリカ系アメリカ人に食塩感受性高血圧の人が多いかというと、そこには上記のようなアメリカンヒストリーがあったのです。

汗と食塩感受性メカニズムについては次の機会に記載します。


 

 

リウマチ患者様からの質問に答える -ちょっと詳しい免疫の話ー

つづき

そもそもリウマチとは何ぞや?とよく患者様から聞かれるので整理いたします。

リウマチとは、自分と外から来た異物を区別できなくなり、その結果として、炎症が起こる疾患です。自分と異物を区別して異物を排除するしくみを免疫といいます。

まずは、異物を排除する仕組み(免疫)から。

異物が入ると自分の体を守るために白血球が登場します。白血球は、下図1のようにいろいろ種類があります。病原体を丸ごと食べるマクロファージや好中球、抗体をつくって撃退するB細胞、感染した細胞を破壊するT細胞などがあります。

図1

異物が体に入ると、下図2のようにマクロファージがそれを食べ、近くの血管が広がり、血液成分が外に漏れ、異物の排除、修復が行われます。これが炎症で、熱感、発赤、腫脹、疼痛を引き起こします。更に、マクロファージだけでは手に負えなくなると、下図2のようにサイトカインという伝達物質をつくって近くの血管に働き、好中球を呼び寄せ異物排除にあたります。

図2

しかし、マクロファージの中で生き延びる強者もいます。そんな異物を退治するために、図3のようにT細胞が登場します。T細胞は普段は何もしないおとなしい細胞ですが、樹状細胞(白血球、図1参照)から刺激を受けると、サイトカインを分泌してマクロファージを活性化させます。

図3

リウマチは、免疫がうまく働かなくなり、異物が入らなくても、上記のように攻撃が開始されてしまう疾患です。リウマチを根治させることは難しく、対症療法として炎症を抑える薬が使われます。

参考までにさまざまなリウマチ薬の作用機序について下記に示します。

岡本一男ら、領域融合レビュー、1、e003(2012),からの引用、一部改変

図1~3は、田中稔之、免疫学、じほう からの抜粋