昆布のうまみ成分の放出を抑えるラミクタール(ラモトリギン)

先日、食欲が出なくなり、外出困難になった患者様Aさん(50代、女性)に在宅を頼まれました。Aさんは往診で新しいお薬ラミクタール(ラモトリギン)が処方されました。

(私)新しいお薬が追加されました。

(Aさん)どういうお薬ですか?

(私)気分の変動を落ち着かせるお薬です。脳で興奮を引き起こすグルタミン酸の放出を抑えます。

(Aさん)グルタミン酸って化学調味料の?

(私)昆布のうまみ成分であるグルタミン酸です。日本人の池田菊苗が見つけたことで有名ですよね。グルタミン酸はアミノ酸をつくる重要な栄養成分であると同時に重要な脳の興奮性神経伝達物質なのです。このお薬は脳でグルタミン酸の放出を抑えることにより、神経の余計な興奮を抑える働きをします。

(Aさん)グルタミン酸を出さないようにする薬なのですね。しかし、うまみ成分が興奮物質とはおもしろいですね。では、昆布を食べ過ぎたり化学調味料を使いすぎると興奮しやすくなるのですか?一時期、中華料理店症候群といって、グルタミン酸を食べ過ぎると頭痛がするなど問題になったことがありましたが。

(私)中華料理店症候群は、現在では否定されています。そもそも食事から摂取したグルタミン酸は脳には入りません。脳に入るには、血液脳関門という関所のようなものがあるのですが、グルタミン酸は脳への出入りを許可されていないのです。ですから、食事からいくら摂取しても脳にはいかないとされています。脳で使われるグルタミン酸は脳でつくられるのです。例えば脳の関所(血液脳関門)を通ることのできるグルタミンから生成されたりします(引用文献)。

(Aさん)食事からとったグルタミン酸が脳で使われることはないのですね。新しい薬を飲むときは、不安で少し怖いのですが、薬のことがわかると安心してのむことができます。

上記の記載は経験に基づくもので患者様は架空の人物です。

 

せん妄について聞かれました

元アルコール依存症患者の在宅患者Aさんは、毎日ワインを1瓶空けていましたが、徐々にお酒を減らし、今は断酒状態が続いています。

(Aさん)アルコール依存症の人がいきなりアルコールを絶ってはいけないのですか?

(私)急な断酒はせん妄を惹き起こすことがあります。

(Aさん)せん妄ってなんですか?

(私)映画「ルパン三世 カリオストロの城」でルパンが銃で撃たれて深い傷を負った後、一時的に記憶が混乱した場面をご存知ですか?このように大きい手術のあとや入院などの環境の変化でせん妄が起こることが知られています。せん妄とは全身状態の悪化や薬剤などで誘発される軽度の意識障害です。せん妄は幻視、妄想も起こります。幻聴はまれです。
また、いわゆる柳原病院事件(乳がん手術直後に主治医が患者にわいせつ行為をしたとされる事件)も術後せん妄が原因とみなされています。詳しくは『せん妄とか幻覚とか』をご参照ください。

(Aさん)なるほど。手術や入院などの環境の変化でおこるのですね。

(私)せん妄の治療は、環境調整(日中はカーテンを開けて昼夜の区別をつける、入院中は家人につきそってもらうなど)、せん妄を引き起こしやすい薬剤の整理、栄養や貧血などの全身状態の改善をはかることが第一であり、そのうえでお薬を使用すると報告されています。

(Aさん)お薬はどんなものを使うのですか?

(私)治験で有効性が示されているのは抗精神病薬です。2011年までせん妄の適応をもつ薬がなかったのですが、クエチアピン(セロクエル)、ハロペリドール(セレネース)、ペロスピロン(ルーラン)、リスペリドン(リスパダール)が保険適用になりました。ただし、アルコール依存症の方が入院して断酒した時に起こるせん妄(アルコール離脱せん妄)はベンゾジアゼピン系のジアゼパム(セルシン)、ロラゼパム(ワイパックス)を使用するそうです。(アルコールとベンゾジアゼピンの相互作用についてはこちら

(Aさん)せん妄一般とアルコール離脱せん妄は服用する薬がちがうのですね。

引用文献:臨床医学知識、大八木秀和、じほう