間質が間質でなくなる日

間質、の対になる言葉は?”を読んだ患者様から質問を受けた。①実質から漏れ出る液体は実質液ではなく間質液でよいか?②肺以外の臓器の間質とは何か?③間質液はリンパ液でよいか?間質液の老廃物はどこに排出されるのか?
① 実質を支える細胞が間質であるので実質から出た液体は間質液である。
② 以下の通り。

③間質液とは、実質または間質細胞から漏れ出た栄養分を運ぶ液体の総称である。間質液を含めて間質という。以下の図のように、間質液はリンパ液に排出され、最終的に静脈に排泄される。

 

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/1844からの引用

間質の最新の知見としては、今まで間質(液)は細胞間を埋める空間や単なる結合組織として考えられてきたが、高性能なプロープ型共焦点レーザー顕微鏡(pCLE)によって空間や組織が観察できるようになった。間質が間質でなくなる日が来るかもしれない。

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症例報告を軽視する医療関係者は現場に出ないでほしい

過去記事の間質性肺炎の付け足し。ああ、連鎖が続いていく。。。

薬剤性の間質性肺炎は、薬剤の副作用としてかなり知られたもの&注意しなければいけないものであるが、一般医療関係者への理解・普及という点で今一つであるように思う。薬剤性の肝障害と比べたりするとその差は顕著だろう。思うに頻度的にレアだというのがその原因の一つではあるだろう。

だが、便利な時代になった。薬剤性間質性肺炎の症例がネット上で手に入る。

検索するとここに置いてありました。リンク切れの際は 日本呼吸学会誌 42 (6), 2004 p523~ 参照のほどを。

【経過概要】69 歳女性。X 年 8 月より咳嗽、腰痛を自覚。近医整形外科などを経て 12 月に某国立病院入院。各種検査にて肺腺癌 stage Ⅳ と診断される。X +1 年 1 月 21 日よりゲフィチニブ 250mg/day 投与。経過良好だったが、2 月 6 日に労作時呼吸困難出現。炎症所見もあったため翌日胸部 CT 施行。両側肺野のすりガラス上陰影を認めた。ゲフィニチブによる間質性肺炎と診断し、同剤投与中止、ステロイドパルス療法開始。一進一退であったが、3 月 24 日に急速な呼吸不全をきたし、帰らぬ人となった。

注目すべきは、ゲフィチニブ投与開始から 2 週間程度で副作用が出現している点、ステロイド治療まで踏み込んでいる割に治療反応性は必ずしもよくない点でしょうか。これらの症例報告の集積から、ゲフィチニブによる間質性肺炎は、機序が細胞障害性(慢性)でもアレルギー性(急性)でもなく未だに詳細不明であるが、肺障害の発生率は通常の化学療法に比べ高いこと、がわかっています。

 

ところで薬剤師の卒前教育は 6 年制に移行し、臨床教育も以前に比べると重視されるようになった(と聞く)。しかし、医師や看護師に比べるとカリキュラム的に「練れてない」感が強い。軸足が、未だに化学を中心とした微視的なメカニズム重視の「科学」に置かれすぎているように思うのだ。製薬メーカーの研究職ならばそれでいいかもしれないが、臨床薬剤師を目指すにはまただまた改善の余地がありそうだ。疫学的な知見から機序は不明ながら因果関係が明らかになったエビデンスは数多い。ハードサイエンス的なノリでそのような事柄を身に着けていくのは難しい。体験するのが一番なのだろうが、頻度的にレアなものはそれすら難しい。そのような事例は、症例報告などを読むなりして補っていく必要があるように思うのだ。

なぜアルツハイマー医師の一例報告がアルツハイマー病となったのか?

 

 

 

アルツハイマーは1907年症例を発表したが、それが誰かに認められなければここまで有名にはならなかっただろう。どうやって認められたのだろうか。

1907年:アルツハイマーがアルツハイマー病とその裏付けとなる脳の病理学について“大脳皮質の特異的疾患 A Characteristic Disease of the Cerebral Cortex”という論文のタイトルの中で初めて発表する。彼のカルテには患者が死ぬ一年前の記録しかなく、患者の死後の脳の解剖をもとに論文が発表された。

1907年:Fischerも認知症における病理学的変化の論文を発表する。

1908年:Bonfiglioがアルツハイマーが発表した症状と組織病理学的に類似した60才の患者症例を発表する。

1909年:Perusiniがアルツハイマーの症例を臨床的見地から見直し、再発表する。患者の夫からの聞き取り調査等も含まれる。

1910年:Kraepelinがアルツハイマーが報告した症例を“アルツハイマー病”として定義付ける。

アルツハイマー病は、それまで年相応の老衰として扱われていた。早期でも40代で発症するとわかっていたが、一般に障害として認知されていなかった。アルツハイマーは脳において健常者と差があること、大脳皮質に異常な堆積(現在でいうアミロイド)が見られることを見出した。

なぜkrapelinは同じ業績を残したFuscher、Bonfiglio、Perusiniを知っていながら、アルツハイマー病と名付けたか?

Kraepelinが、①科学的な見地から、アルツハイマーが新しい病気を発見したと確信していたこと。②Fischerとライバル関係であった精神学学会の派閥の名声を優先したかったことが挙げられる。

出典

Maurer K.et. al, LANCET, 1997,349,1546-1549

医師が説明できない病気に診断名をー遺伝子診断ー

2016年、サンディエゴでセバスティーナは生まれてすぐ、全身が痙攣で固くなっていた。首はねじれ、顔は真っ青であった。半身は硬直していた。まるでだれかに暴力的に殴られたように。彼女は泣き叫んだ。

最初主治医は気を払わなかった。新生児は痙攣を起こすことがあるからである。しかしながら、彼女の場合数時間おきに痙攣が起こった。痙攣の仕方は尋常ではなかった。母親が母乳を与えようとしてものむことができなかった。

主治医は診断名を下せなかった。そこで彼は以下のことを行った。彼女が生まれる一年前に、Kingmore医師が遺伝子診断の施設を立ち上げていた。4ヶ月未満の新生児で説明がつかない疾患があった場合、採血して遺伝子診断を行っていた。主治医は、彼らに依頼し、彼女の全ゲノムをシーケンスさせ、彼が説明できないヒントを探させた。Kingmore 医師は、ゲノム診断の結果から、普段使われない抗けいれん薬を提案した。他の薬は彼女を眠くさせてしまうので長く使いすぎると、発育が遅くなってしまうからである。当初からMRIでの脳の異常はなかった。痙攣さえ押さえ込めれば脳がきちんと発達できる可能性があった。生後6日後に、彼女は両親に応答し、食べられるようになり、痙攣は止まった。

ゲノム診断が薬を代え、彼女に正常な発達をもたらせた。遺伝子診断料の平均は8500ドルである。

TIME 2017.10/2号 p.38からの要約

痙攣が関係するゲノムの変異があったのかは不明。

 

抗うつ剤

うつ病は世界の3億人を苦しめている。1/3は治療に反応しない。新しい驚くべき薬がこれを変えるかもしれない。

  • ケタミン
  • 低用量ではクラブドラッグ、高用量では麻酔薬だがうつ病に速く効くというエビデンスがある。製薬会社が同じような薬を開発し始めた。科学者はヒトゲノム上の15箇所の遺伝子が治療の対象となるかもしれないと述べている。

ここ50年来最も画期的な治療だが、不明瞭な点も多い。何しろ1/3の患者は薬が効かないのだ。

そもそもうつ病の治療は、ギリシャの民間療法しかなかったが、ついに18世紀、生物学的な要因もあると考えられるようになった。その後、薬草療法から、痛みを感じられないほどふらつく回転椅子を用いた療法、音楽療法、アヘンまですべての治療は、流行り廃りがあった。

1938年、電気けいれん療法だけがが現代の有効なうつ病の治療方法とされた。しかし、時々記憶がなくなるという副作用も引き起こされた。

1950年になるまで医師たちは、薬でうつ病が治ると言う考えには至らなかった。

ある時偶然に結核薬イプロニアジドが悲壮感で死にそうな患者にエネルギッシュで多幸感、社会性が出ることを見いだした。1950年後半、うつ病40万人にこの薬が投薬された。しかし、肝臓障害が見いだされ市場から撤去された。

三環系抗うつ薬イミプラミンが1957年上市された。1987年SSRIプロザック(日本未承認)がイーライリリーから発売され、世界中で200万人に投薬された。現在でもSSRI は評価が高いが、完全ではない。すべてのヒトには効かない。

科学的に裏付けられた、薬を使わない治療法も注目されている。たくさんのうつ病患者が、処方箋薬なしで奏効を見いだしている。

1、運動

規則的な運動は、ある神経伝達物質を増加することによって生活ムードさせる。そして無料である。

2、認知行動療法

Cognitive- behavioral therapy

対話療法でネガティブな思考を変化させる。10から20回のセッションで薬と同等の効果があった。

3、Behavioral -activation therapy (日本語に直されていない)

ボランティアや読書、友達を作るなど生活に活動を追加させる。LANCET にCBTと同じ効果と表される。お金がさらにかからない。

4、マインドフルネストレーニング

禅の瞑想を取り入れる。

5、経頭蓋磁気刺激療法

transcranial  magnetic stimulation TMS

弱い電流を頭蓋にながす。麻酔なしで行う。週に2、3回、4から6週行う。2008年FDA は少なくとも1回の抗うつ薬が効かなかった患者に対して、保険適応とした。

TIME 8/7 P.32 要約